幕 間 劇 < an intermission -- a play > 「未だ同じ望みを抱くのだね」 淡々とした、それでいてどこか喜色を滲ませた声にあたしは応えるものを持っていなかった。 否。持っていないふりをした。 くつくつと押し殺された笑い声は、おそらくあたしが振り向かない間は後ろに存在する人物が漏らしたものだ。 神野陰之。 魔女の「手段」であり、最高の「魔術師」。 「……あたしの望み、ね」 「そう。純粋で単純であるが故に、ひどく複雑で難解だ」 「!」 彼の出現はいつだって唐突で、こちらの不意をつく。しかし目の前に立ち塞がるような、まともに姿の見える現れ方はしなかった。 死角に存在しているのが当たり前だった。 「ちゃんと顔を見せてくれるのは随分と久しぶりだね」 「おや、機嫌を損ねてしまったかな。隠者よ」 「あたしの名は『』よ。その呼び方は止めて」 丸眼鏡の奥の瞳がすぅっと細まる。 「。君はなぜ出てきた?」 彼の言葉の意味はよくわかっている。 彼の隣りに立ち、望みを告げるのは隠者の役目ではない。微笑を浮かべた一人の「魔女」の役割だ。 そして彼が関わっているのは彼女の望みと、魔王の物語。 「あたしの出演していい物語ではないのに?」 多少皮肉な物言いになってしまったのは仕方がない。 「『の望み』は魔女の妨げとなってしまう」 「知っている。でも、知ってるはずでしょ」 あたしの持つ望み。 それがあたしを物語をつむげる立場に引き止める唯一の蜘蛛の糸だ。 そしてそれこそがあたしを神野と立場を違えている唯一の理由。 「あたしの望みは永遠に叶わない」 「だからこそ、君と私とは違う。例え君が『隠者』として全てを厭い、全てに唾棄し、全てに背を向けようとも……」 かつて、あたし達は真理を追い求めた。 全てを知ろうとし、あらゆる魔法も魔術も希望も絶望すらも身のうちに溜めようとした。 神野の一番の望みがそれだったから。あたしはそれに従った。 でも。 「陰之」 あたしは彼が彼でなくなってから始めてその名前を呼んだ。 不意をつかれたように黙り込んだ彼に昔の面影を見出すのは簡単だった。 「でも、まだわかってないよね?」 いつだって、 どんな時だって、 どこでだって、 どんな物語の中にいたって、 ―――あたしが欲しかったのは。 「……私には全ての者の望みを叶える力がある。読み取る力も持っている」 「例外なのは、あたしが神野陰之、あなた自身でもあること。誰でも自分の姿や望みを見ることはできない。まして、あなたのように介する物さえ持たないなら」 「なるほど。そう思うのならば、それも一つの真実の断面だろう。しかし私は君の望みがわかっている」 あたしはなんだか淋しいような、むなしいような気分になって首を振る。 「何が違うのかね?君の望みは私の『消滅』だろう」 これが、隠者と魔術師との間に出来た深い深い、地獄の底さえも通り過ぎるほどの溝。 垣間見えるたびに沸き起こる絶望感を、どう言い表せるというのだろう。 魔王の味わった闇より、なお暗く。 古くは狼であった戦士の無力感よりも、なお虚ろに。 あたしを蝕んでいく。 「それは望みを叶えるための通過地点でしかないよ」 「何を……」 「ねえ」 あたしは嗤う。 鏡の少女のように純粋であったなら。いやせめて、普通の人間であったなら。 泣いてしまいたかったけれど。 「あたしはずっと、」 いつから望み続けているのか、あたしにだってわからない。 「あの頃に戻りたいだけなんだよ……?」 いつだって、 どんな時だって、 どこでだって、 どんな物語の中にいたって、 ―――あたしが欲しかったのは。 あなたと過ごしていた時間。 あの頃のあたし。 御伽噺のように古い、二人がまだ人間だった頃の――― 「……?」 その声はあまりにも昔のままだった。 「……ただの、幕間の小話よ。それだけ」 ―――隠者は臆病なだけなのだから それだけということに、 しておいて、下さい。 ……というものをもらってしまいま・し・たッ!!!(スタッカート) 相互リンク記念に風見さんに。否、風見様に。 しかもリクエストした次の日に「できました」って…!凄すぎる!! もう全然とうてい真似できません。(かぶりをふりつつ) 謎加減の上手いお方だとは思っていましたが、本当にもう…。やられました。 大好きです!(告白)(迷惑) 心の底からありがとうございました!!! |