時々ふわりと思い出す。

それは大抵戦いの前だったり後だったりするけど

嬉しい時、悲しい時いつも一緒にいて気づかなかった。

気づいてしまうとなんだか急に両脇が広く感じられた。












月色望郷













戦いに勝利した後、皆で祝い合うのはどこの国も同じらしい。
私も初めは皆と一緒になって喜び合ったけれど・・・・・・・飲み過ぎたらしい。
火照る体と襲いくる眠気を覚ますため私は騒がしい宴を後にし、外の木に腰掛けた。
漆黒の空には大きな月が昇っている。
なんとなくその月を眺めて思い出に浸る。


思えば向こうの世界でもこんな感じだったと思う。

初めの方は皆と一緒に宴を楽しむが、眠くなると体を冷やす意味で外に出て月を眺める。

今やってる事とそんなに変わらない。


違うのは天に浮かぶ月と彼らがここに居ないこと。








「今頃…どうしてるだろう…。」








地面につかぬ足のつま先に靴を引っかけながらここにはない月の浮かぶ故郷と友人達を思った。
















































宴は別に嫌いじゃない。
共に戦った者と飲み交わし、交流を深めることは良いことだと思うし、大切な事とも思う。
しかし、こうも五月蠅いと段々疲れてくる。
宴の始まった頃はこの騒がしさも皆の喜びの表れと微笑ましく思っていたが、しばらく立つと少々耳障りに感じる。
私は近くの椅子に腰掛け、陽気に踊るホビット達の歌声を聞きながら辺りを見渡した。
何処を見ても皆嬉しそうだ。
ふとその時さっきまでここにいたはずの少女がいない事に気がつく。




……酔いを覚ましに行ったのだろうか………?




私が見る限り結構飲んでいたので、あり得なくもないが、もしかしたらそのまま外で寝てしまうかもしれない。
この時期に風邪は勘弁してほしいものだ。
私はため息をつき、彼女のいるであろう外へ向かい歩き出した。
















































僕がここに訪れた時は彼女はもうそこにいた。
今日は木々も物静かで嵐の前兆のように感じられた。
彼女は木の枝に腰を掛け、くつを足に引っかけながら遠くを見ていた。
暗闇の透けた瞳…きっと彼女が見ているのは実際見ている場所よりもっと遠い場所。
音を出すのも躊躇われる中 彼女は独り言のようにつぶやいた。









今頃…どうしているだろう…。







きっと人間の耳ならば聞き取れない声。


しかし、私の耳には確実に届いてしまった。


望郷……というものだろうか…?


声自体はとても小さいのにその中に含まれる言霊は切実だった。


僕は彼女から視線を外し、迫り続ける真の闇に耳を傾けた。
















































「アラゴルン。宴はもういいのかい?」
外に出ると1人の見知ったエルフが自分に話しかけてきた。
金の糸のような髪を風に靡かせながらこちらを向く。
「あぁ…は…?」
私は辺りに視線をやるがどこも闇に包まれ誰かが居る気配すらしない。
「あぁ…彼女なら…」
そう言ってレゴラスは人差し指を上へ向ける。
それにつられて、私も視線を上に上げた。
とたん、顔に強い衝撃を感じた。
闇の森の王子はそんな光景を変わらぬ笑顔のまま見ていたようだ。















































…」
突然名前を呼ばれて視線を移す。
そこには私の靴と顔を押さえるアラゴルンがいた。
「…………何か…あったのか…?」
私が真剣に聞くと彼はため息をつき、私の左側に腰掛けた。
「あちらの世界の事を考えていたのか?」
いきなり核心をつかれて少し驚く。
すぐにいつものポーカーフェイスに戻れたつもりだったが、木に飛び乗り、自分の右側に座ったエルフには気づかれたらしい。
「顔に帰りたいと書いてあるよ。」
「帰りたいんじゃない………っ!?」
思わず出てしまった言葉に思わず口に手をやる。




………できればそういう所は似て欲しくなかった………。




ここにはいないどこかの王を思い出し、古典的罠に引っかかる自分を恨みながら、私はゆっくりと言葉を紡いだ。
「………今頃………どうしてるだろうと思って……。」


きっと心配しているだろう。


普段顔に出さなくても、心の中では心配してくれる人たちだと知っているから。


「別にここにいたくないのではない。皆よくしてくれるし、私自身皆のことが好きだ。」


ただ事情を知っているとはいえ、突然姿を消したら彼らはどう思うだろう…。


二人の焦点が自分で交わるのを感じながら、遠くの宴の音をどこか違う物のように聞いていた。















































「ならば…」
しばらくして、私の左側に座るアラゴルンが口を開いた。
「ならば、貴方は何をすべきだと思う?」
「………。」
彼がそんな事を言ってくれるとは思わなくて、言葉に詰まる。
「貴方は自分はその人達に心配かけてると思うならばやることは一つだろう。」




一つ…それは指輪を葬り、元の世界に戻ること……。


しかし、それはここにいる二人や旅の仲間、エルロンド達との別れを意味する。


もしかしたらそれが彼らと会う最後の時になるかもしれない……。


指輪は葬り去らなくてはならない…しかし、もう皆と会えなくなると思うと胸が痛む…。


私が黙って考えていると今度はレゴラスが口を開いた。


「それでも結局やらなくては本当に永遠に会えなくなるかもしれないよ。」
つまりそれは指輪を葬れば…サウロンを倒せば、いつかきっとまた会えると言うこと。
一瞬月明かりが私たちに被さった。





「……そうだな……すまない、二人の言うとおりだ。有り難う……。」




そう言って私は二人の頭を撫でた。
身長は明らかに違うのに座高にあまり差がないのは悔しいがこの際気にしない。
「さて、気も落ち着いたし、もう一度宴に参加してくるかな!」
青い月明かりに照らされた足下を見ながら、私は無事着地し、宴の方へ戻った。
胸に二人の言葉といつか言ってもらえるだろう「お帰り」を抱いて……。















































「君、あんな事言って良かったの?」
僕がそう指摘するとアラゴルンはお前こそ。と返してきた。
いつも冷静沈着、且つ気まぐれな彼女をあそこまで凹ませる人物達。
彼女にとって彼らがどんな存在かはあの様子を見ればよく分かる。
きっと彼女を真に励ませるのは彼らで自分達ではないと思うものの何となく腑に落ちない。

つまり…




「「まだまだ子供だな」」


思わずゴチた言葉がハモり、笑いに変わる。

「僕らも戻ろうか?」
そう言って城に戻る私たちの頭上に月が輝いていた。


いつかどこの世界でもあれだけは美しいと彼女は言った。


しかし、彼女は気づいているだろうか……?


自分の見ている月の色と僕らの見ている月の色が違うことに………。


僕はふっと笑いながら、どんな暗闇にも平等に照らす月を少し恨めしく思いながら朝まで続くだろう宴の輪に入っていった。


















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お絵描きBBSでお世話になっている睦月さんからいただきました!
なんとウチのサイトの指輪&幻水ヒロインの設定を
そのまんま使ってくださって…!(嬉泣)

このなんとも言えない雰囲気がとってもステキです。ナイスです。
むしろ私よりも睦月さんが書いたほうがいいんじゃってくらいです。
ありがとうございましたー!!


そんな睦月さんの素敵作品をたくさん楽しみたいという方はこちら→ 「夢未完創」
(リンクページからも旅立てます)