そろそろ眠りにつくのにも丁度よくなった、午後11時過ぎ。
 普段なら客間で眠るのが常だというのに、何故か現在は空目の部屋の空目のベッドにいた。














彼女に知らされない彼の実験










(ね、眠れない……!)

 当然隣には、麗しの魔王陛下がいたりして。
 あまつさえその魔王陛下は子供みたいに人の手を握って、すでに夢の中だったりして。

(落ち着け、落ち着け私! このままじゃ確実に心臓が動悸に耐えられなくなる……!!)

 意識が無いことでいつもよりも幼く可愛らしくなった空目の顔から目を逸らし、は必死に深呼吸を繰り返して暴走する心臓を治めにかかった。
 傍から見られるとなんだか変態扱いされそうな気がするが、どうせこの部屋には2人きりなのだからあまり関係はない。
 ちなみにあやめはどこへ行ったのかというと、「わ、わたし、今日は居間にいます」と今のにとっては嬉しくもなんともない気を使ってくれて下にいる。
 せめてこの場にあやめが居てくれたなら、まだこの空目からの攻撃にも耐えられただろうに。

 妙に熱を持つ左手を、けれどどうにも動かせず繋いだまま、は日中の出来事を思い出していた。
 この状況の原因をもう一度反芻するために。否、もうぶっちゃけ現実逃避するために。




 夏休みも半ばの本日昼間。
 お前宿題はどうしたと突っ込みたくなる程に意気込んで、俊也が再び空目宅へとやってきた。
 どうやら、どうにかしてから勝利を取りたくて仕方が無いようだ。
 ポーカー、将棋、オセロ、ババ抜き、7並べ。
 様々な勝負に興じ、そしてその度に敗れてきた俊也が本日持ち込んできたのは、チェスだった。
今日は既に昼の下ごしらえが済んでいたので、賭けたのは『食後のデザートの買出し』。

「何買ってきてもらおうかな」
「今日こそ勝つ」

 微妙に温度差のあるやる気のもと、そうして俊也とのチェス対戦の幕は切って落とされた。




(いやいや、そこまでは別にいいんだよ。普通なんだよ)
 ベッドの中で悶々と回想にふけっていたは、一度意識を現実に浮上させてからゆるく首を振った。
 そう。そこまでなら前日までと同じく、俊也と楽しいバトルを繰り広げるだけで済んだのに。
 ああ、やっぱり思い返すだに、俊也をコンビニへと見送った後の思いつきがまずかった。




「空目君もさ、たまには対戦しようよ」
 延々読書に没頭している空目との沈黙に飽きたがそう言いだしたのは、俊也が出て行って10分程たった頃のことだった。
 本当に、ただの思いつき。
 いつでもどこでもマイペースな空目がそんな提案に乗ってくるとは思えなかったし、むしろ返事が帰って来るかどうかも危ういくらいだ。
 しばらく無音の状態が続き、やっぱり無駄か、仕方がない茶でも飲もうとが立ち上がったところで、空目はやっと本から顔をあげた。
「構わん」
「へ? えーっと…その構わんってのは」
「チェスをしても構わん、と言ったんだ」
 その時の感想をなんと言おう。
 そうだ、天変地異の前触れ。
 自分で振っておいて随分な物言いだとは思うが、即座にそう浮かんだのだからしょうがない。空目の日ごろの行いだろう。うん。
「ただし、条件をつけるぞ」
「じ、条件?」
「簡単なことだ。敗者は勝者の言葉に一つだけ従う」
 空目の、どこか楽しげで凄まじく妖しげな持ちかけに頬を引き攣らせたものの、それを深く問いただす前に空目は本を閉じてチェスをセットしてしまった。
 準備万端いつでも来い。
 そんな状態にされては、今更挑戦を取り消すこともできない。
「では、はじめよう」




 結果、もちろん惨敗。
 勝者(空目)から敗者()に出された条件……今夜一緒に寝ること。




(だからその条件がおかしいんだってー!!)

 回想の終了したは、自由のきく右手で頭を抱えた。
 ベッドに入ったのは9時少し過ぎ。
 すでにもう2時間以上『美少年の寝顔』という責め苦に耐えていることになる。
 面食い道をひた走るにとっては、本当に本気で凄まじいまでの拷問だ。このまま一睡もできなかったらどうしよう。
「せ、せめて手だけでも……」
 どうにか手だけでも外せれば、ベッドの隅の隅に丸まって寝るという手段を取ることもできる。
 意識はないくせにしっかりと人の手を握っている空目の白い指を、は一本ずつ外しにかかった。
人差し指を抜き、中指を抜き、薬指を抜いて後少し、というところで、空目の瞼が震えた。ついつい条件反射で固まったまま息を殺して様子を窺っていると、どこか焦点のあっていないぼんやりとした目をしていた空目は、寝返りを打つようにの方へ向いたと同時に、あろうことか空いていた左手での頭を抱え込んだのだ。
 簡単に言えば、抱きしめられているような状態。
 簡単に言えば、密着度の異常に高い状態。
 それはもう、心臓が普段の4倍位の速さになっても仕方がない状態。
「う、うう、ううう空目君、これはヤバイ。さすがにこの体勢はヤバイ・・・!!」
 心臓を酷使しすぎて、このままでは朝までに死んでしまう。
 空目の腕から抜け出そうともがくが、思いのほかその力は強くまともに身動きすら取れない。
「空目君ってば…」
 なんだかもう半分泣きそうになりながら名前を呼べば、返されたのは髪を撫でる優しい手。
 望んでいる動きとは激しく違うのだが、普段の空目からは考えられないほどにそれが優しくて、暖かくて。先程まで猛スピードで血液を送り出していたの心臓は、現金にも落ち着きを取り戻していた。
 そうなると今度は、途端に睡魔が襲い掛かってくる。
 急激に重たくなってくる瞼の向こうに空目の端麗な寝顔を見ながら、は直下降で眠りに落ちていった。















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先の100万ヒットのお祝いにと、相互リンクで常日頃より仲良くしていただいている猫柳さんより
こんな素敵きわまるMissing夢をいただきました…(感涙)
おお…なんということでしょう。拙宅の原作沿い設定でのエピソードです。
しかも拙宅の原作沿いよりダンゼン、ぶっちぎりで胸がときめきます。
もうこれすなわち猫柳さんマジックとでもいいましょうか、あなたにどこまでもついてゆきたいと
でも申しましょうか、なんかもう猫柳さんがゴッデスに見えてきました…!
このような素敵夢小説をひじょーに気前よくプレゼントしてくださったゴッデスに感謝感激しつつ、
思わずわたしもインスピレーションを授かり、いらない後日談的おまけを書いてしまいました。

さあ、わたくしと同じときめきを覚えた皆さん、声をそろえてご一緒に!
ありがとうございました猫柳さーん!(叫)




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「筆屋」
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