空目宅の門扉は相変わらずそびえるように建っていた。
 この重厚なたたずまい。間違いなく魔王陛下の居住地である。
 一ヶ月と間をあけずにここを訪れることになろうとは……、とは内心ため息をついた。そのくらい空目宅は彼女にとって色々と思い出の多い場所だった。中にはなるべく一生そっとしまっておきたいような恥ずかしいエピソードもある。

 とほほの気持ちで文芸部の面々と森居多絵のあとに続き、敷地内に一歩、神妙になって足を踏み入れた。
 無事にここを出られますようにとひそかに祈りまくりながら。













22.約束を果たそう

















 総勢七名。話し合いの結果、部屋割りは男女別、女子は一階の客間を使い、男子は応接室のソファで狭苦しく我慢することとなった。
 この決定の背景には、いざというときの危険性を考えるとなるべく集団で行動する必要があるうえに、一人暮らし同然の屋敷内にはかぎられた寝具しか存在しなかったという切ない事情がある。
 ゆえに、は早々に「あ、私のぶんの布団はいらないから」と寝具の用意を辞退した。

「ほら。私ちょっと今うかつに寝られなくってさ……」
「え――ああ……、そ、そっか……」
「そんな顔しないで。大丈夫。テスト前だと思えば徹夜の一晩や二晩!」

 やけくそ気味にこぶしを握るに、それでも武巳や稜子は不安そうだった。俊也と亜紀は無言で空目に視線を向けた。転校生のリスクについて、あの彼が何の対応も考えていないとは思えなかったからである。
 それについて、空目の答えは一言だった。
 
「あやめをつける」

 ぽむ、と本人が納得したように手を打つ。
 確かに睡眠を必要としない神隠しは、徹夜のお供にうってつけだった。
 よろしくね、と小さな少女に笑いかけると、あやめは恥じ入りながらも頷いてくれた。

 ――長い夜の、始まりである。









 とあやめは、皆を見送ってリビングルームに残った。
 女子の客間に来ないかと稜子に誘われたが、眠りたいのに眠れない人間の前では彼女たちも安眠できなかろうと考えて、丁重に遠慮した。

 しん、と静寂に満ちたリビングルームでは膝をかかえる。細心の注意をはらって背もたれには寄りかからない。ついでに足もくずさない。
 安定した気楽な姿勢だとすぐに眠くなってしまいそうな気がしたからだ。
 あやめはちょこんとのソファの隣に座っていたが、不思議そうに首をかしげながら無理やり珍妙な姿勢をつづける彼女を見ていた。

 こんな調子で朝まで眠らない予定の二人は、たまにぽつぽつと言葉を交わす。
 時計の針は、皆が部屋に引き上げてから軽く三回は回っていた。当初はそれなりに元気をたたえていたも、このところの休息不足がたたってか、しだいに疲れを見せ始めていた。

「……なーんかもうすっかり静かだねー……、あやめちゃん」
「……は……はい」
「……みんなもう寝ちゃったかなー」
「…………」

 テーブルの上には二人ぶんのマグカップが置かれている。
 眠気覚ましにとがいれた紅茶で、中身はすでに空だった。

 とにかく眠い、とはしばしば頬をつねり、頭を振った。
 コーヒーも紅茶もすでに数杯は飲みほしている彼女である。それも最初からおいしさを諦めて恐ろしく濃いものを作ったはずなのに、効果むなしく身体はあっさりとカフェインを無視して、あらがいがたい眠気をうったえてくる。
 誰に指摘されずとも、はひしひしとおのれの限界を感じていた。

(このまま寝られたらどんなにいいか……)

 今ならば布団がなくとも即行で寝息をたてられる自信があった。
 それもそのはず、が夢の少年と我慢大会をしている間は、はっきりいって覚醒しているも同然なのである。むしろ単純に起きているときよりも気力をはげしく消耗するので、しゃれにならないくらいに疲れるのだ。
 ところが、体力を回復しようと少しでも眠ろうとしたが最後「いっしょにいこう、いっしょにあそぼう」攻撃が始まってしまう。

 こういうふうに相手を眠らせないでじわじわ屈服するのを待つ拷問ってあったよね……とは哀愁とともに思い出す。直接的な方法をとるよりもずっと時間はかかるが、成功率の非常に高い有効な支配手段だと、ものの本には記してあった。
 まさかこの身をもって似たような体験をするとは。

「っ……。あやめちゃん……」

 それでも必死に眠るまいと、はとにかく声を出す。
 もはや自分が何を話そうとしているのかにも思考が回らない。

「私が眠っちゃったら、なんとしてでも起こしてほしいの……」
「え…………」
「殴ってでもいいからさ……。おねがい……」
「…………さん……」

 おねがい、ともう一度は言った。
 あやめは顔をこわばらせて驚いていたが、やがて小さく頷いた。

「……ありがとう。……あのね」
「は、はい……」
「ローリング・バットとか……」
「…………?」
「ジャイアント・スウィングとか、フライング・ボディー・アタックとか……手段は問わないから……。……よろしく

 はうつろな口調で果てしなく無茶な注文をつけた。
 よろしくされたあやめはというと、当たり前だが思いっきりうろたえた。彼女はそもそも横文字に壊滅的に弱い。の並べた単語が格闘技の名前であることすらも理解できていなかった。

 きわめつけに、事態は最悪な状態におちいった。

 あやめに「よろしく」と頼んだことが安心材料となったのか、ふっと無意識に気を抜いたがうっかり姿勢をくずし、ソファの背もたれに寄りかかったのである。
 そして、再び背筋を伸ばす余力に欠けていた彼女は、自然のなりゆきで――

 がく、と首をうなだれさせた。

「…………っ」

 おろおろする神隠しが見守る前で、はぴくりとも動かなくなった。
 十秒が過ぎ、一分が経過した。
 しかし、ソファのうえで泥と化したにいっこうに起き上がる気配はない。

 これ以上もないほどに事態はあきらかだった。
 あやめはおそるおそるの名を呼び、次にはひかえめに肩に触れ、さらには弱々しく揺すったりもしたが、そんな遠慮がちな行為では、気絶するように意識をなくすまで消耗した人間が目を覚ますはずもない。

“ 私が眠っちゃったら、なんとしてでも起こしてほしいの…… ”

 の懇願があやめの脳裏によみがえる。

“ ローリング・ソバットとか…… ”
“ ジャイアント・スウィングとか、フライング・ボディー・アタックとか…… ”
“ ……よろしく ”

 いらんところまで律儀に思い出したあやめは、パニック寸前になった。
 この少女にしては驚嘆ものの大胆さでの服を引っぱり、ほとんど泣きそうになりながら、起きてくださいお願いですから起きてくださいと何度も叫ぶ。

 神隠し特有の力を使おうにも、あれはつまるところ異界に干渉するものであって、ただ単に眠っている人間をただ単に叩き起こすような手段にはならない。それ以前には『壁』で守られているので、あやめの異界の力は届かないのだ。

 そのうち自分の無力を悟った少女は、すっくと立ち上がって、スカートをひるがえし、一階の応接室へと大急ぎで走った。とにかく彼に知らせなくてはと判断した結果だった。
 幸いにも空目たちはほど深く眠り込んではおらず、あやめが軽く扉をノックしただけで反応が返ってきた。

 しどろもどろなあやめの説明を聞きながら、彼らは足早にリビングルームに駆け込んだが、室内を見渡したとたん全員が足を止めた。
 あやめは口元を両手で覆い、空目はわずかに目を細め、俊也は深く眉をひそめた。

 テーブルの上に置かれたマグカップ。
 背もたれにしわの残るソファー。
 放り出されたままの携帯電話。

「……あやめ……。確かにここにいたはずなんだな?」

 他にもいくつかの彼女の痕跡が、あまりにも生々しく異常を訴える。
 の姿だけがそこにはなかった。









 一方、とうとう睡魔に負けて気絶するように眠り込んだは、自分が眠ってしまったのだと気がつく前に、小柄な人物とばったり遭遇していた。
 相手は中学生くらいの年頃の少年だった。
 はまず最初に、彼の目隠しの布がきつく肌に食い込んでいるのに眉をひそめ、目元は隠れているものの鼻梁が整った顔つきに喜んだ。
 しかし、その頬に浮かんだ嬉しそうな笑顔に、一瞬にして蒼白になった。うげっといううめき声を喉の奥に飲み込む。このうすら寒いような、良く言えば無邪気な喜色の表情に思いっきり心当たりがある。

(ああ……っ! まさか!)

 少年の正体に思い至ったへ追いすがるように、彼の気配がまとわりついた。軽やかな子どもの笑い声。必死に振り払おうともがいても、どこまでもどこまでも追いかけてくる。
 手首に、腕に、足に、首に。全身に。
 すさまじいプレッシャーが襲いかかる。いまや完全に身動きが取れなかった。
 思わずは盛大に舌打ちした。

(――捕まった……!)

 やばい。これはやばい。
 子どもと顔を合わせてしまったのが運のつきだった。
 かえすがえすも、あそこで眠ってしまったのがいけなかったのだろう。時間の問題だったのかもしれないが、不意をつかれたのだ、これは。明らかに。

 遊ぼう? と少年が手を差し伸べてきた。
 ぶんぶんとは横に首を振る。彼の言う「遊び」とやらが具体的にどんなことをするのかは知らないが、今までの犠牲者のたどった結果からしても十中八九ろくでもないに違いない。

 即行で拒否された少年は、しかしめげなかった。
 少しくらいめげてくれたほうがこの場合親切なのだが、彼はますます勧誘に熱をこめてにまとわりついた。はなから人の話を聞く気はないらしい。
 ねえ遊ぼうよ、ねえ一緒に行こうよ、一緒に、一緒に、ねえ、ねえ――

(ひ……ひええ……っ)

 困ったことに、少年が熱心になるたびにプレッシャーが増していく。
 は断じて「うん」と言うわけにはいかないから、どれだけ巧みに誘われようとも拒絶するしかないのだが、するとますます少年が笑顔の圧力を加えてくるのだ。

 柔らかな見えない綿で全身を絞められているような感覚。
 ここまで強烈な空気は、夏休みの大迫栄一郎の一件以来だった。問答無用に近い干渉力がの言葉すらも奪う。とにかく身体が自由にならなかった。

 ――遊ぼう……ねえ。
 もう一緒に、つれていってしまうよ?

 少年の声がぐっと近づいたような気がした。
 ははっとして顔を上げて、すぐに後悔した。
 目の前に少年の顔が待ち構えていたのだ。ひどく食い込んだ白い目隠しに息を飲んだ。

「ぼくと一緒にいこう。ね……、おねえさん」

 甘えるようなボーイソプラノ。なめらかな頬。
 は大きく目を見開いた。驚愕のあまり呼吸を忘れた。以前よりもさらに成長した少年。彼はのよく知る誰かと似ていた。それはいつも『彼』の顔を観察するくせのあっただったから気づけたのかもしれない面影だった。

 驚きがそのまま声になって口からこぼれる。
 決して話しかけてはならないと、わかっていたのに。

「……うつめ…くん……?」

 守りたいと誓った彼によく似た少年は、にっこりと笑った。
 未成熟な両腕が精一杯に広がって、の首に巻きつき、弾んだ声がいとおしむようにささやいた。

「つかまえた」

 唇がわなないて、どうしても抵抗することができなかった。
 は今までになく深く絡みつく濃密な気配に包まれて、やがて身体の内側から発生した眠気に、なすすべもなく目蓋を閉ざした。











 そのころ、文芸部メンバーであり被害者候補の一人でもある武巳は奇妙な夢を見ていた。
 夢にしては非常に現実感のある内容で、彼はそれが夢であるとは自覚していなかった。

 なぜならば、武巳は一人で応接室にいたのだ。
 ここは空目宅の一階だとわかる。どんな顔ぶれで、どういう事情で泊まりに来ているのか、目的も経緯もいちおうのこと理解している。

 だからこそ、次の瞬間、武巳は総毛立った。
 この屋敷にいるはずのない子どものものと思われる足音を聞いたのだ。

 ――ひた、ひた……

 裸足で直に廊下を歩いているような音だった。
 いつの間にか開いていた応接室の扉に、足音は近づいてくる。

 ――ひた、ひた、ひた……

 武巳はいわくいいがたい緊張感のなか、やがて扉の隙間にあらわれた人を見た。
 知った顔だった。
 不可思議なことに子どもではなく、同い年の少女の森居多絵。客間で亜紀や稜子たちとともに過ごしているはずの彼女が、ゆっくりと扉の前を通り過ぎる。

 それは驚愕の姿だった。
 多絵はなぜか両目にしっかりと目隠しをして、まるで透明人間に手を引かれるようにして、いっさいの照明のない真っ暗な廊下を歩いていったのだ。
 細い手の引かれる先にはただ暗闇が広がるばかりで誰の姿もないが、多絵の足取りに迷うようなところはなかった。本当に『誰か』に導かれでもしているふうに、着実に歩を進めていく。

 武巳は戦慄を覚えながらその異常な光景にくぎづけになっていたものの、途中で彼女を止めるか、あるいは追いかけたほうがいいのではと思い立ち、声をかけようとした。

 しかし、寸前になって一気に視界が切り替わる。

 今度は、なぜか武巳はリビングルームにいた。
 そこではいきなり変わった室内にびっくりするよりも先に、はるかに彼を驚愕させる場景が待ち受けていた。
 両目にきつく目隠しをした子どもと、意識をなくしてぐったりしている少女。

 武巳は息も止まるかというほどに絶句した。
 目隠しをした子どもはこれまで何度も夢で見てきた“ そうじさま ”であり、意識のない少女はまぎれもなく友人のだったのだ。

 子どもは武巳の記憶にあるよりも少し年齢があがっているようだったが、恐ろしく無邪気な笑顔を浮かべているところは何も変わっていなかった。“そうじさま”の幼い手のひらには、包帯にも見える白い布がにぎられている。

 少年は満面に笑いながら、白い布をの顔に近づけた。
 布はするりと彼女の顔を覆う。この時点で“そうじさま”が何をしようとしているのか気がついた武巳は、あっと声をあげた。このままでは、目隠しをして歩いていった多絵とが同じことになってしまうと、とっさに思った。
 そう、あのときの多絵が一人で歩いていたのでなく、もしも『誰か』に連れられていたのだとしたら。
 多絵のあの目隠しが、その『誰か』によるものだとしたら。
 そして、その『誰か』が“そうじさま”だとしたら――。

「っ……だっ……!」

 駄目だ止めろ、と武巳が言い終えぬうちに、小さな子どもの手によっての両目に巻かれた布が結ばれてしまった。
 ほんの数瞬ほどの差だが、確実に制止は間に合わなかったのだ。
 ――“そうじさま”による目隠し。“そうじさま”の儀式をとりおこなった雪村月子は目隠しをしたまま死んだ。森居多絵は目隠しをしたまま連れていかれた。これが人間にとって良い経過のはずがないというのに。
 武巳は友人の窮地を悟って真っ青になり、彼女と遊びたくてたまらなかった子どもは明るい歓声をあげた。
 そのときだった。



 ぱき……っ



 突然、劇的に場の空気を変える音がした。
 一瞬前まで“そうじさま”の雰囲気が支配していたリビングルームを、何か新しいものがあっという間に席巻し、凌駕した。

 ぴし……っ、ぱきぱき……、ぱき……

 謎の音はつづく。
 この激変した形勢に“そうじさま”すらも動揺を見せた。
 目隠しをした少年は身体をこわばらせたあと、すぐに顔をゆがめ、そばにいたから逃げるように後ずさる。あきらかに、彼はおびえていた。彼にとっての脅威がそのまま彼女であるとでもいうふうな態度だった。

 武巳は“そうじさま”の反応を不審に思ったが、今さらながら、こんな状況になっても目を覚まさない友人にもぎくりとする。異界の現象を理解する力を持たない彼でも、何かがおかしいと感じ始めていた。

「……、ちゃん……?」

 亀裂の走る音がする。
 目隠しをされた彼女の内側から破綻の音がする。
 見えないひびが広がり、いやおうなく崩壊の予兆が告げられる。

 いまだ身じろぎすらしないに、不安をこらえられなくなった武巳が歩み寄ろうとしたとき、ぬっと闇から出現した腕がそれを押し止めた。
 ――神野陰之。
 以前空目が失踪した際、魔女の紹介によって対面した正体不明の男だった。みずからを魔人と称する男は、軽くつかんただけで武巳を硬直させると、つづいて“そうじさま”を一瞥のもと見事に牽制する。神野の目的は、彼らではないらしかった。

 外套に包まれた長身が、目隠しをされた少女を見下ろす。
 約束を果たそう。襟の影に隠れた唇が、そう動いた。

 神野陰之の外套がふわりと広がってを包み、大きく空気がざわめき、丸眼鏡の奥の微笑みも真っ白い布の目隠しもすべてが闇へと消えていく。
 夢の終わりに、武巳はひときわ大きな亀裂の音を聞いた。













 覚えているのは冷えた色の空だった。
 澄みきっているのに手を伸ばせば跳ね返される、硬質のブルー。

 そしてたぶん、雪が降っていたと思う。
 場所はどこかの神社の境内。いや……あれは、そのとき住んでいた家の近くにあった神社だった。さほど大きくもない敷地には昼間から人気がほとんどない。

 その男は、最初からそこにいたわけではなかった。
 何度か『狭間』でぼんやりと見かけたことがあったし、万能の影の話は様々な『彼ら』から伝え聞いてもいた。

「あなた、こころがないのね」

 初めて投げかけた言葉は、確かそんな内容だったはずだ。
 彼は『狭間』から抜け出し、完全に輪郭をとって、興味深そうに見下ろす。

「だから、こころをほしがるの?」

 ぶしつけで遠慮のない問いかけに、男は答えなかった。代わりに「ほう」とため息をついて、最大級の感嘆を示す。二対の眼差しが、このときになってようやくまともに交わった。
 彼の目は、真っ暗な闇の色だった。
 果てのない黒。すべてを飲み込む混沌。生きている者が持ちえない瞳であることは間違いがない、異形の双眸。
 本当なら恐ろしいと感じるようなものだったのに、ずいと近寄ってまじまじと見入った。今まで見たことのない目だった。素直にきれいだと思ったのだ。

「わたし、。あなたは?」

 男は暗鬱にくつくつと笑った。
 夜色の外套が地につくのもかまわず、すい、と腰を折る。

「……神野陰之。君に正体を語る必要は――ないようだね」

 そりゃそうよ見ればわかるもの、とは言った。
 説明されるまでもなかった。彼は見たままに彼であるのだとわかったし、これはもはや理屈ではなく、にとっては当たり前のことだった。

 そんなときが、確かにあった。
 いくつもの世界が見えるままに見えていた、知りうるままに知っていた。

 そう、あれは雪の日。
 長い男の指と、柔らかい少女の指がからまって、約束をした。
 いつかの未来を必ず、と……。

 ――ふわりと身体が持ち上げられて、約束を果たそう、と男の声がささやいた。
 それが誰なのだか知っている。
 あたたかさのないぬくもりを、泣きたくなるほどなつかしく覚えていていた。


 がしゃ……ぁん……


 どこかで『目隠し』の壊れる音が響いた。

















next


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今回の話の別名は「空目氏の影が薄い話」です。
そして次回もきっと薄いこと間違いなし…!(笑)



(2005.02.21)